映像や絵画を見ると、人間は必ず主題となる物体を探し、視線が移動します。その主題とフレームから構成されるのが「構図」です。構図により人間の心理状態は、大きく揺れうごきます。一体なぜなのか、この構図の力学を応用していない絵画(静止画)や映像(動画)はないと言っていいと思います。簡単な例から解説してみます。
正面向き主題の配置
単純な背景に正面を向いた明確な主題をひとつだけ配置する構図について考えてみます。フレームはハイビジョンテレビと同じ横長の16:9です。
センター位置

我が家の愛犬、名前はアリスでトイプードルの女の子です。この写真をフレームで囲むと…

この映像ならどこ見ますか? 真ん中に配置されたトイプードルのアリス以外目に入りません。
フレームのセンターにドーンって配置することで主題が際立って明確になります。しかもアリスの目線は正面真っ直ぐを見ています。見ている側が見られています。目線の高さ「アイレベル」は見る側と同じくらいで、安定した構図です。
ここでの主題とは、映像を構成する要素を指します。要素が複数ある場合は、構図やカメラワークで変化することもあります。
左・右と余白
次はアリスを正面向いたままフレームの左位置に配置してみます。

右側に空いた余白、空間が生まれました。何もない背景だと、何か置きたくなります。つまり、構図としては少し不安定です。明確な主題がある時、人間の視野はその主題を無意識のうちにセンターに持ってくるからです。特に奥行き感がない背景では、その不安定さが強調されます。だから、縦長の主題をスマホで撮影しようと思うと縦長で撮りたくなります。理由は空白余白の必要がないからです。

右側に配置する構図と左側に配置する構図、印象に違いはあるでしょうか?
個人差になってしまうかもしれませんが、左側にアリスが配置されている構図よりも右側に配置された構図の方が、空白の存在感・印象度が大きくなります。
上・下に配置することで発生する「余白の引力」
次は横長のフレームですが、上下に配置してみます。

フレーム下側に上半身だけ配置してみると、
何かストーリーが始まりそうだと思いませんか? アリスが下の線からひょっこり顔を出したように見えてきます。頭の上の空間があることで主題が上に引っ張られそうに見えます。
このような構図では、フレームの中心つまり安定した構図へ主題を無意識に再配置しようとする力学が働きます。つまり、フレームが作り出す何もない空間に、主題を引っ張る「余白の引力」が発生する構図になります。

フレームの上半分に下半分だけ配置してみると、アリスが落ちちゃいそうです。下半分の余白空間に引っ張られそうです。もしくは、UFOに吸い上げられている感じにも見えます。フレームを変えるだけで映像には不安定さが生まれるのです。
横向き主題の配置
次に横を向いていると明確に判断できる主題を配置する構図を考えます。
右向き

右向きの主題を画面の左側(下手)に配置してみます。構図としては、画面右側(上手)に余白があっても、主題が進みそうな方向であることから、不安定さはありません。余白の引力さえ感じます。これは正面向きの構図とは明らかに異なります。
今度は主題を画面右側(上手)に配置してみます。

アリスが右側の壁に顔を向ける構図です。左側から移動したアリスが外を眺めている、それともケージの中でご飯を待ってるように見えます。どちらにせよ、アリスは止まっていて動く気配はありません。あるとすれば、右側に振り向きそうな予感がするだけです。
以上のように、主題が横を向くだけで静止画であっても、見る人にとって一気にストーリーが動き出します。これが構図の基礎力学です。
左向き
左向きでも同じでしょうか、右向きの構図では歩き出しそうな印象でしたが。

個人の見解ですが、左向きのアリスは「おすわり・待て」をしているような印象があります。余白の部分にご飯が出てきそうな予感さえします。

左向きのまま画面左側(下手)に配置すると、アリスが反省しているようにも見えます。
構図には見る人の記憶と経験によってどんな心理状態になるのか、それを誘導する作用を持っています。主題が何かということも影響されます。よく円形をフレームの中に置いて構図を説明する場合がありますが、円とプードルでは印象は明らかに異なります。犬には犬の既知情報、つまり犬はこうする物体だという記憶が映像のストーリー性を生み出すのです。ですから、全く知らない未知の物体が主題であれば、さらに異なる印象になるに違いありません。

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